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国際宇宙ステーション?「きぼう」日本実験棟で実施した研究プロジェクトの成果がNASAの2024年研究成果ハイライトに選定されました


概要

大学院薬学研究科コロイド?高分子物性学分野(山中淳平 教授、奥薗透 准教授、豊玉彰子 准教授および、多くの大学院生?学部生)と宇宙航空研究開発機構(JAXA)をはじめとする研究グループが実施した、国際宇宙ステーション(ISS)?「きぼう」日本実験棟でのコロイド粒子会合実験「微小重力を用いた多成分会合コロイド系の相挙動の研究」の成果が、アメリカ航空宇宙局(NASA)の報告書The 2024 Annual Highlights of Results from the International Space Station (2024年度 国際宇宙ステーション成果ハイライト) に掲載されました[1]。対象の研究は、日本マイクログラビティ応用学会誌(駒沢穂乃佳、石神瑛圭、三木裕之、豊玉彰子、奥薗透、山中淳平、2023年)に論文として掲載されています。[2]

本研究には、澳门皇冠_皇冠国际-体育*比分大学院 樋口恒彦名誉教授、オーストラリア中性子科学技術機構 Jitendra Mata博士も参加しており、また宇宙実験は、JAXA(足立聡 博士、坂下哲也博士)のほか、日本宇宙フォーラム(島岡太郎氏、永井正恵氏)、株式会社エイ?イー?エス(渡邊勇基氏、福山誠二郎氏)の各機関が参加して実施されました。

NASAの報告書では、2024年度に出版された350を超える論文リスト、ISSの活用で得られた最新の科学的発見の概要が紹介されており、その中で特に優れた成果を挙げた研究の一つとして、本研究も紹介されています。

本研究は、「きぼう」利用テーマ「微小重力を用いた多成分会合コロイド系の相挙動の研究(Colloidal Clusters)」[3] として実施された、コロイド粒子の会合に関するテーマで、2020年7月に「きぼう」で実験が行われました。その後、解析結果をまとめた論文がnpj Microgravity誌などに掲載されています [4][5][6]。

この実験では、ISSでコロイド粒子の集合体を作製し、構造を地上に持ち帰って分析し、構造形成に対する重力の影響を調べました(詳細は【研究の概要】に記載しています)。その際、ISSで生成した構造を壊さず固定して持ち帰るための方法が課題となっていました。

我々はこれまで行った他の宇宙実験で、コロイド粒子を高分子ゲルにより固定して地上に持ち帰る方法を開発していました。これは、紫外線を照射することで高分子ゲルが生成するよう、数種類の化合物をあらかじめ実験サンプル液に溶解しておき、 ISSで粒子の集合構造が生成した後、紫外線を照射して固定するものです。

しかし、ゲル化に用いる化合物には、時間と共に分解する物質が含まれており、長期保存は困難でした。宇宙実験では、サンプルを充填してから実験実施まで、数ヶ月以上の待機時間が必要なこともあります。今回の宇宙実験では充填してから約8か月後に実験が実施されましたが、様々な工夫を行うことで、サンプルを固定して地上で分析することができました。特に、地上でのクラスター形成の防止とゲル化剤劣化の低減のために、ISSでのゲル化の直前に、ゲル化化合物を混ぜ合わせる方法を用いました。具体的な内容は【研究の概要】をご参照ください。

研究の概要

コロイド粒子の四面体クラスター構造は、光を操る材料であるフォトニック結晶の構成要素として働き、光を用いた医薬分野でも活用が期待されます。コロイドの会合挙動は重力の影響を受けるため、ISSの微小重力環境は粒子の会合挙動の研究に理想的です。
本実験では、正(プラス)および負(マイナス)電荷を持つ1マイクロメートル程度の粒子を水に分散させたコロイド液が形成した会合体を地上に持ち帰って検討しました。図1は粒子の会合の模式図を示しています。

図1 正および負電荷を持つコロイド粒子の会合体の模式図 (mは会合数)

図1 正および負電荷を持つコロイド粒子の会合体の模式図 (mは会合数)。

プラスとマイナスの電荷を持つコロイド粒子がそれぞれ分散した液を、中央に隔壁を持つプラスチックバッグ(図2)の両側に入れ、ロケットでISSの「きぼう」に運びました。バッグは容積が3mLの2つの部屋が連結されており、強く押すことで隔壁が破れ、2液が混合されます。宇宙実験に用いた粒子は、比重が小さく(1.05)、地上でも会合体の生成が確認できるポリスチレン粒子と、比重が大きく(約3以上) 地上では沈降のため実験が困難なチタニア(二酸化チタン) 粒子などです。

図2 宇宙実験に用いたサンプルバッグ(文献[2])

図2 宇宙実験に用いたサンプルバッグ(文献[2])

ISS?「きぼう」で、宇宙飛行士がバッグを強く押して中央の隔壁を破り、2液が混合されました。これらの液には、紫外線を照射すると、液が「ゲル」になる化合物をあらかじめ溶かしてあり、会合体が生成したあとそのまま「きぼう」内で紫外線を照射し、試料を固定しました。
実験方法の模式図を図3に示しています。 ゲル化には3種類の化合物DMA, Bis, VAが必要で、このうちDMAとBisはゲルの本体である高分子の網目を作り、VAは紫外線により活性化され、反応全体を開始させる化合物です。ただし紫外線照射がなくてもVAは時間とともに徐々に活性化してしまうため、DMA, Bis, VAの混合溶液ではゲル化が進んでしまう恐れがありました。そこで、今回の実験では、バッグの一方のサンプルにDMAとBisを、もう一方にはVAを、別々に溶解させることで、経時変化を防ぎました。このほか、各成分の濃度の最適化などを行うことで、 ISSで8ヶ月以上長期保存した後も、予定通りゲル化を行うことができました。ゲルの硬さは、保存せずただちにゲル化したサンプルの約70 %で、分析に十分な強度を持っていました。

図3  サンプルの固定法 (a) 通常の手法、(b) 本宇宙実験で用いた手法(文献[2])

図3  サンプルの固定法 (a) 通常の手法、(b) 本宇宙実験で用いた手法(文献[2])

図4は地上に帰還し、バッグから取り出したサンプルで、高分子ゲルで良好固定されていました。図5はサンプルを切断して、その断面を顕微鏡観察した結果(ポリスチレン粒子の会合体)で、様々な会合体の生成を確認できました。

図4 ゲルで固定された宇宙実験サンプル(文献[4])

図4 ゲルで固定された宇宙実験サンプル(文献[4])

図5宇宙実験で生成した、様々な会合数 (m)を持つポリスチレン粒子の会合体。蛍光顕微鏡画像(文献[4])

図5 宇宙実験で生成した、様々な会合数 (m)を持つポリスチレン粒子の会合体。蛍光顕微鏡画像(文献[4])。

この新しいゲル化技術は、様々なソフトマター系を含む将来の宇宙実験に役立つと期待されます。

[1] NASA Annual Highlights Website

[2] H.Komazawa, T. Ishigami, H. Miki, A. Toyotama, T. Okuzono, J. Yamanaka, “A Method of Immobilizing Colloids in Polymer Gels Used in The "Colloidal Clusters" Space Experiment Project”, Int. J. Microgravity Sci. Appl. 40 (2023) 400402.
DOI https://doi.org/0.15011/jasma.36.360401
オープンアクセス

[3] JAXA「きぼう」Website

[4] H. Miki et al., “Clustering of Charged Colloidal Particles in the Microgravity Environment of Space”, npj Microgravity 9 (2023) 33.
DOI https://doi.org/10.1038/s41526-023-00280-5.
オープンアクセス

[5] H.Miki, S.Akai, A.Toyotama, T. Okuzono, J.Mata, J.Yamanaka,
“Direct observation of light reflection by titania particles”, Chem. Lett. 53 (2024) upad056.
DOI https://doi.org/10.1093/chemle/upad056

[6] 三木 裕之, 山中 淳平, 奥薗 透, 豊玉 彰子, 「コロイド粒子の自己集合と宇宙実験」
日本物理学会誌79 (2024) 602-607.
DOI https://doi.org/10.11316/butsuri.79.11_602

ポイント

? コロイド会合体形成宇宙実験で開発したゲル固定技術により、サンプル充填後8ヶ月以上経っても、紫外線照射によりサンプルが固定できました。

?この技術を用いて、ISS?「きぼう」の微小重力環境で生成した、会合体の構造を固定して、地上に帰還させ、分析することに世界で初めて成功しました。

?本技術が評価され、NASAの報告書The 2024 Annual Highlights of Results from the International Space Station (2024年度 国際宇宙ステーション成果ハイライト) に掲載されました。

研究の意義と今後の展開や社会的意義など

本ゲル化技術は、今後も様々なソフトマターの宇宙実験に活用が期待されます。また、本宇宙実験の実験成果は、会合現象に関する基礎研究に加え、フォトニック結晶やコロイド粒子を利用したセンサー作製の基礎データとして、バイオや診断、環境の分野で活用が期待されます。

用語説明

コロイド(colloid)
「コロイド」とは、ナノメートルからマイクロメートルサイズの分散相(粒子に限らない)が媒体に分散した系の全体を指し、「コロイド分散系」と同義である。物質を分散させることがコロイド科学の中心課題であるため、その逆の、凝集?会合に関しても、長年研究が行われてきた。コロイド粒子は適切な条件を選ぶと、分散液中で自発的に集合して、さまざまな秩序構造を形成する。多数の粒子が形成する規則配列構造(コロイド結晶)については、半世紀以上にわたる研究成果が集積されている。また近年、数個から10個程度の少数の粒子系が作る、「クラスター」(会合体)の研究も活発である。コロイド結晶およびクラスターのいずれについても、原子?分子系の相転移のモデル系としての基礎的研究から、複雑構造を持つ新規材料への応用研究まで、幅広い検討が行われている。特に近年、異方的な相互作用を持つ粒子が開発され、また、多成分コロイド系の構造形成の研究が進展した結果、様々な新規構造が作製されている。

フォトニック結晶(photonic crystal)
屈折率が光の波長のオーダー(可視光線では、400 nmから800 nm)で周期的に変化する構造体を、フォトニック結晶という。結晶内部の光の伝わりかたを、構造によって制御できる。基本研究とともに応用開発がさかんに進められており、一部で実用化されている。ダイヤモンド格子型の構造を持つフォトニック結晶は、「光の閉じ込め」が可能であることが理論的に分っており、リソグラフィー法などでダイヤモンド構造が作製されているが、コロイドの自己集積では、大型の結晶が自発的に生成する利点があるため、世界的に活発な研究が行われている。

ゲル(gel)
液体の中に特定の物質が分散していて、かつその物質が網目状に結合?集合して流動性を失い、全体としては固体状になったものをいう。物質が高分子で、網目状になったゲルを高分子ゲルという。また分散媒が水のゲルをヒドロゲル (hydrogel)という。ゼリー、豆腐、こんにゃく等はゲルである。宇宙実験では、合成高分子である、ポリアクリルアミドのゲルが生成するような反応液を用いている。